「私のワードローブから」  2  美しいシャツ その1





d0004856_1120952.jpg「美しいシャツを手にいれたとき、 なんだか 自分も 一人前の男になった ような気がした。
スーツを着る男にとって、シャツ というのは チョットした ‘魔力‘というのが あるように思う。」
(百歳堂 敬白)




「シャツを注文するということ」 

は、1945年当時のパリのシャツ屋のリストです。戦後まもない頃で、「ADAM」という雑誌に、有名どころが共同で広告をだしたものです。

この中で、いま、パリの街に残っているのは、「LANVIN」、「Hildich & Key」、「Charvet」といったところでしょうか。 
「Doucet」というのは、60年代末まではあったように思うのですが、いまも残っているのだろうか。たしか、ジャン・ポール・ベルモンドが主演していたネクタイ狂いのギャングの映画にチラと映っていたような気がするのだが、、。その他の店は、60年代末には、もう、みかけなかったように思う。

パリジャンは、何故かシャツには拘りがあって、以前は、洗濯屋とシャツの仕立て屋というのは、小さな良い店が各通りに必ずあったものだ。昔から、クリーニングとシャツはフランス式が上等とされている。
そのパリジャンでさえ、いまや注文のシャツを愛用している人は、めっきり少なくなった。



しかし、「美しいシャツ」は既成のものでは、手にはいらないことになっている。

イヤ、確かに、既成のものでも良いシャツはあります。

だけど、身体にピッタリと、皺ひとつなくフィットして(特に、肩から首のあたり)、ヨークの下の醜いヒダで運動量をとるのではなく、ジャケットのように袖の背中側に適度な分量がある、そして ちゃんと、ネクタイとスーツのラペルにあった衿型で、できれば、袖の付け根のところに味わい深いハンドステッチが欲しい、、、、、、
、、、こうなると、腕の良い職人に頼らざるを得ないでしょう。


そこで、、、
美しいシャツを 手に入れるために、それに見合った美しい生地とピタッと仕立てくれる職人さんを探さなければならない。

d0004856_1403334.jpgズイブンと、私は、いろんなシャツ屋をめぐりました。


「BESPOKE という ホントの意味」

<クニーシェ(ウイーン)>

マレーネ・デイートリッヒは、ここで特別製のシャツを仕立ていた。それには、胸をより美しく見せるための仕掛けがしてあったという。(娘さんによるデイートリッヒの伝記によると、彼女は、胸にコンプレックスがあったらしい。仕掛けというのは、一種のブラがシャツにくっついていたものらしい。)

ハウススタイルの衿は、いまのハヤリからみると、どれも少し小ぶりで、ハイカラーになっている。特に衿先がラウンドのタブカラーが、20年代風でエレガントだと思う。
私は、ここでスーツを仕立てていたので、それにあわせるシャツは、昔風にネックのボタンをダブルでとめるスタイルにした以外は、ハウススタイルに委ねた。結局、それが、ここのスーツには、一番なじんだ。



<バテイストーニ(ローマ)>

いまのバステイトーニと、昔のバステイトーニは違う。いまも、良い店にちがいない。ここだけの、カルロリーバーの生地(特にブルーのバリエーションなど)には幻惑されるし、コンドッテ通りから、少し奥まったたたずまいも,表通りのファッションぽさから一線を画した感じで、好感がもてる。

何が違うのか、、、、。
具体的には、いくつかあげられるが(昔は、いまみたいに、フルラインのレデイメイドは並んでいなかった、仮縫いのときも、今の若い担当者と違うおじいさんがやってくれた。)、 先ずは、「空気」が違う。 いってしまえば、ローマ自体もまた、昔とは街の「空気」が違う。


バテイストーニはダンデイな店だった。、、、 店にはいると、数人の店員がいる、イヤ 、店員と番頭格の店員、あるい番頭見習い、そして店主と、明らかにヒエラルキーのある構成が、そこに見える。 客がエレガントならば、店主がにこやかに微笑む。 微笑みがあれば、あなたは、この店における立場を保障されたことになる。
アウンの呼吸で、番頭が動く、 「今日は、何を ご所望でしょう。旦那様」、、、 「シャツを数枚、、」
、、、、そして、あなたは、奥にある生地の陳列ルームに通され、椅子にすわる。若い店員が飛んできて「飲み物などいかがでしょう?」と聞く。 だされたカフェを飲みながら、番頭が目の前のテーブルの上に次々と並べていって、山のようになった生地を吟味する。、、「これにしよう」、、、。では、こちらにと、個室のフィッテイングルームに移動する。 この道、何十年という風情のフィッターが採寸をしながら、「今日は、良いお日和で、、」とかいう、そして、「ところで、旦那さまは どちらのホテルにお泊りで、、」と何気なく聞く、、、、、 ひとつ覚えておいた方が良さソウなのは、この何気ない会話で尋ねてくる、ホテルやらなにやらは総て、番頭、あるいは店主に報告され、客は、再度、値踏みされ、それに見合ったシャツが出来てくる、ということだ、、、、、



d0004856_07699.jpgどうです。  少し前まで、 老舗では、客は差別されていたものなのですヨ。
こうした一種の緊張感というのか、そのようなモノの中で、男は、ダンダンと磨かれ、立ち居振る舞いというのがわかってくる。 
これが「空気」なのです。

巨大資本やら、マーケテイング全盛のおかげで、「買いやすく」「見やすく」、何でも気軽に買えるようになった。
アリガタイことだ。しかし、その反面で、買ったものが身につかない男も増えたように思う。

それは、この老舗がもっていた「空気」が希薄になって、男の買い物も、単に金とモノとの交換に成り果てたからだと、私は思う。



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by rikughi | 2005-04-03 11:19 | 2.美しいシャツ その壱


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