「男の躾け方」 2  睡眠




「、、、吸血鬼とダンデイは、眠り にもスタイルを持っている。」
( 百歳堂 敬白 )




d0004856_19354865.jpg近頃、「眠り」に悩みを持つ人が、多いという。「眠ること」に迷う社会というのは、不幸だが、それよりも気になるのは、あれほど日中のドレスには気をつかうのに、「眠る」ときのスタイルにコダワル人が少なくなったということだ。

いまの男は、「眠り」を楽しむことを 忘れてしまったようだ。
快適な「眠り」は、それを「育てる」必要があると、私は、教わった。合いふさわしいスタイルで、「眠り」を迎えることは、男の暮らしぶりを計る尺度であり、また密やかな愉しみでもある。

ノエル・カワードは、トレードマークとなったシルクのドレッシングガウンをシュルカで誂え、当時、最先端の アールデコの軽快なベッドルームを準備した。 多くのダンデイ達は、快適で贅沢な眠りを求めて、胸に大きなイニシャルを入れた絹のパジャマをもとめた。(夢のなかでも、自分の名前を忘れぬよう用心したのか、どうかは知らないが、それが流行った。)

「眠る」スタイルを見失ったときから、人は「眠り」に裏切られ、格闘をはじめるのだと思う。


贅沢な 眠りを 求めて、、、 私は、リストを片手に、パリの或る店を訪ねた。この店には、私を手助けしてくれるプロが揃っているという。 頼もしいではないか。



パリのモンターニュ通りに、この店はある。ここには、世界中から、「眠り」のエピキュリアン達が集まってくる。この店に、お世話になった人には、フレッド・アステア、ジョセフィン・ベーカー、ウインザー公爵夫妻などがいる。スノッブなアガ・カーンも顧客だったに違いない。

数年前に、モンターニュ通りは、改装され、また、それに合わせて 模様替えをした店も 多いが、それでも 黒と金に塗られた柵が並ぶ この通りは 昔の面影を残している。ここに、並ぶ店は、もとは 大貴族の館だったのだ。広い通りの向こうには、エッフェル塔が一望でき、通りの真ん中あたりには、プラザ・アテネが、フランソワ一世通りとぶつかる手前には、シャンゼリゼ劇場がある。

この通りには、私の お気に入りのレストランが2軒ある。

ひとつは,鳩料理が有名な、きわめてクラッシクなフランス料理が味わえる店で、ここは、いまだに 男の客にはネクタイの着用を義務づけている。パリに残された ブルジョワの牙城のひとつだ。
鳩は、日本人には好みが分かれるところだが(それに、この店の入り口の待合には、供される鳩が、わざわざ 鳥かごに飼われて 客を迎える。気弱な日本人女性を、連れて行ったときには、たとえ、この鳩の由来について、薀蓄を傾けたいという誘惑にかられても、それは避けた方が賢明だ。)、それ以外の 料理も手抜きがない。
この店には、女性のソムリエがいて、この人の真摯な仕事ブリには好感がもてる。ワインリストも、よく勉強されたもので、選ぶ際、客が尋ねれば、控えめに、真面目に 色々教えてくれる。この会話は楽しい。望めば、珍しいものも味わえる。

もう、ひとつは、数年前に出来た店で、シャンゼリゼ劇場の上にある。新鋭、花形シェフの セカンドラインとしてオープンした、モダンキュジインヌの店だが、料理、サービスともに、悪くない。なにより、日曜もオープンしているのが 有難い。パリで、日曜日に開いていて しかも、グルマンの舌を満足させる店を探すのは、至難の業なのです。シャンゼリゼ劇場の 素っ気無いエレベーターを使って店にあがるのも、どこか秘密めいているし、白づくめのモダンなインテリアも、よく訓練された しかし愛想の良いスタッフと合わさると 居心地の良いものとなる。大きなガラス窓から 臨む パリの夜景も美しい。



大雑把に分類すると、この店は「ハウスリネン」の店ということになる。第一次大戦後に、開店したはずだから、18世紀からつづく御用商人という訳ではない。
それが、ホワイトハウスに納めるまでとなったのは、ひとえに クリエイテイブ力溢れ、執拗に質に拘った 初代の女性当主の手腕による。 

店にはいると、山と積まれた タオルの類や、色別、サイズ別に分類されたシーツに 目がくらみそうになるが、ココハ 落ち着いて 奥の顧客用の 椅子にドッカリと座るコトだ。
そして、あなたは、「ベッド リネンを 一式 頼みたいのだが」と 告げるだけで良い。

ソウ、この店は、家のあらゆる用途のリネンを特別注文できる オートクチュールメゾンなのだ。

店に並ぶ既成のものでも、充分、こと足りる。しかし、この店の 真骨頂を味わうためにも、思い切って、自分だけの特注品をオーダーするのを お薦めする。その理由は、この店のパリ郊外のアトリエに、あなたのために控えている 専属のデザイナーと職人のチームの仕事ぶりにある。 
この店が、評判をとったのは、それまで白一色だったハウスリネンの世界に 華やかな色と いかにもパリ、クチュールの伝統を彷彿とさせる 刺繍の妙味を 持ち込んだことにあるのだ。

サザビーズのオークションカタログに残る、ウインザー公のリネン類も、この店によるものだ。 リネンに施された 公のイニシャルと文様のデザイン画は いまも、このアトリエに保管されている。

ここでつくられる特別製のリネン類は、、、夏の夜、ヒンヤリと優しく、迎えてくれる 麻100%(シャツに仕立てたいと思ったほど、しなやかで、目が詰まったものであった。多分、特別に織らせたものなのだろう )のシーツの感触、凍えるような冬の夜に、滑らかに、かつ豪華に包み込んでくれる、シルクが混ざった、コットンやウール、そして絹のシーツ、、、 思わず、頬ずりしたくなるものだ。

これは、実際に体験した人しか知りえない愉悦である。

もちろん、シーツや、ピローケースなどに入れられる イニシャルも デザイナーの手によって、顧客ごとに,図案化される。
王冠をいれるのは、どうかと思うが、魚や、動物、スクロール模様などを組みあわせて、独自のものを頼むのも楽しい。何を頼んでも、上品に仕上げてくれるので、要望を伝えて、あとは まかせてしまうのが、良いと思う。

数週間たつと、全体のコーデイネート案と、それらに 刺繍する 図柄のスケッチ(このスケッチ自体も、額にいれて飾りたくなる程のものだった。)が送られてくる。

私は、秋冬用の イエローと マロンをアクセントにした一式と、夏用の 薄いパウダーブルーと、これも、イエローをアクセントにしたものを 頼み、リネン類と同じイニシャルと図柄が入った、パジャマとバスローブも 合わせて頼むことにした。

請求書は、思わず、目をつむりたくなる額に達していた。しかし、意外と長持ちすることや、なにより、見事にコーデイネイトされた ベッドルームが 毎夜、エレガントな眠りを保障してくれることを 考えると、これは、安い投資なのだ、、、、と、ナンとか自分に言い聞かせることにした。


 
 私の注文ができあがるまで、親身になって、いろいろと連絡をくれたり、我が侭な私の要望について アトリエとの橋渡しをしてくれた、2代目当主は もの静かな紳士だった。
私は、いつも気になっていた質問を、この人にも、投げかけてみたくなった、、、「安眠のコツというのは あるのでしょうか?」
彼は、いつものように 心底、真面目に考え込んでから おもむろにコウいった。

「、、やはり、、眠りたいときに 眠る、 ということでしょうか。、、」


、、、、今夜も、貴方に 安らかな眠りが 訪れますように、、、、、









贅沢な眠りを求めて、、、、
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copyright 2005 Ryuichi Hanakawa

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by rikughi | 2005-05-11 19:37 | 2 「睡眠」


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